Ànrach

1STフル(2016)/From:イギリス/Style:アトモスフェリック

【Track】
1.Ànrach
2.Lutalica
3.Tipiwhenua

【Review】
Krigeistなる人物によるワンマン・ブラック。ロシアのKunsthauchからリリースされた。

筆者が所有しているのは限定100枚(17/100)のヤツでアートワークが描かれたA3サイズのポスターが付いているCD盤。この他にもデジタル音源(Bandcamp)と通常版(こちらは限定200枚)があるらしい。限定版はポスターとデジパックが包装紙に包まれており、封蝋・シーリングスタンプを模した装飾(実際はプラスチック製かと思われる/?)が添えられた、ちょっぴり洒落た仕様になっている。何かと聴く前から気分を盛り上げてくれるKunsthauch製ならではの粋なパッケージングだ。

…残念ながら、我が家に届いた時には封蝋を模したせっかくの装飾が粉々になっていたのだが…(涙)。

さて、音の方は概ねアートワークから感じ取れるインスピレーションをそのまま表現したかの様な作風。この手の音源はアートワークの情景をどれだけ表現できているか?といった部分を筆者は重視するのだが、そういった観点ではよくできた作品だと思う。

常に楽曲を覆い尽くす幻想的なシンセがオーロラを連想させるフローズンなアトモスフィアを放ち、ジリジリとした暗鬱なギターから徐々に盛り上がり、儚くも印象的なトレモロがここぞという部分で泣き散らす。その上をブラック・メタルらしい邪悪なヴォーカルがゆっくりと木霊するといったこの手ではオーソドックスなスタイルではある。しかしながら、上記の様なアトモスフェリック系かくあるべき要素を積み上げながら徐々に盛り上がりを見せ、全てが渾然一体となった時の爆発的な叙情性は強力なフックとなって胸を掻き毟るのである。

一方で楽曲を支えるベースは然るべき部分においてしっかりと聴こえるので楽曲の軸が据わっており、単に”フワッ”とした音像に終始していないのもポイントだ。また、盛り上がる部分においては、しっかりと疾走するのでこの手にしては割と聴きやすく、アトモスフェリックを通り越してアンビエントになってしまうといった事もなく、しっかりとブラック・メタルらしさを蔑ろにしていない部分が何よりもGood。

どの楽曲も揃いも揃って長尺で(三曲しかないが)、短い曲でも16分、長い曲で20分以上となっており、最近のアトモスフェリック系の主流とも言えるスタイルを踏襲。長尺であれ、最後までグイグイと引っ張っていき、飽きずに聴かせる逸品となっている。

自然が作り出すオーロラや雪景色なんかに思いを馳せながら聴くと浸れるだろうし、可能であれば実際にオーロラを眺めながら聴くとより一層素晴らしい体験になるだろうと容易に想像が付く、そんな極寒サウンドだ。Great!