Krallice

Krallice(S/T)

1STフル(2008)/From:アメリカ/Style:ポスト

krallice_1st

【Track】
1.Wretched Wisdom
2.Cnestorial
3.Molec Codices
4.Timehusk
5.Energy Chasms
6.Forgiveness in Rot

【Review】
4人組ブラック・メタル。Profound Lore Recordsからのリリース。

音の方はシューゲイズ的な音作り(哀愁と言うべきか)を振りまきながらブラスト、2ビートで緩急を付けているモノの、基本的な印象としては割りと直線的な音源だ。そこに2本のリード・ギターでトレモロ・フレーズを奏で、複雑に絡ませるといった個性派バンドである。尚、ヴォーカルは奥に引っ込んだ絶叫系だが活躍な場があまりなく、力点がほぼ演奏に注がれている様な内容である。メランコリックな響きのトレモロが縦横無尽に絡み合い、畳み掛けながら激しいドラミングで激情を煽る。複雑に絡み合うフレーズを力でねじ伏せ一曲に纏め上げる演奏技術は圧巻。

特に#6の中盤からラストに掛けては胸を掻きむしられる程に壮絶!複雑故に決して聴きやすい部類では無く、唐突かつ、とっ散らかった印象を受けるかもしれないが、聴き込んでいくと段々と気持ち良くなってきた次第(笑)個性(クセ?)がギラギラしており、聴き手の感性による依存度が大きい作品だと感じた。

尚、楽曲は平均して10分程度あり些か長尺気味だが、目まぐるしく展開するので長さは全く気にならないし、毎回聴きこむごとに何か新たな発見があるなんとも奥深い作りになっている。

 

Dimensional Bleedthrough

2NDフル(2009)/From:アメリカ/Style:ポスト

krallice_2nd

【Track】
1.Dimensional Bleedthrough
2.Autochthon
3.Aridity
4.The Mountain
5.Intraum
6.Untitled(ブックレットに記載なし)
7.Monolith of Possession

【Review】
相変わらずの大作志向、前作の延長線上にありながらメロディに大胆さが際立ったProfound Lore Recordsからの2作目。

兎にも角にもCDをトレイに置き、プレイボタンを押し#1の出だしを暫く聴いただけで「こりゃスゴイな…」と変な笑いが込み上げた次第(笑)複雑な構成をした楽曲は前作とあまり変わらないが、前作より格段に聴きやすくなったのではなかろうか?それに伴って楽曲自体がダイナミックになっており、激情的でやや直線的な前作の作風からより起伏のあるスタイルへと移行している。

一言で言えばメリハリが増した感じだろうか?このバンドの特色でもあるトレモロリフに関しても複雑な絡み合いを聴かせた前作よりも”1フレーズ”を大切にしており、より印象深く聴ける所が本作のポイントではないだろうか。

相変わらず、ヴォーカルの頻度は少なく演奏に力点が置かれているのだが、絶叫とドスの利いた咆哮の二軸で何気にバリエーションが増している点も見逃せない。願わくば、もっと活躍して欲しい所である…。

ハイライトはやはり18分ある大作#7。ヴォーカルが入るまでのタメが長すぎて殆どインスト状態ではあるが、途中に不穏かつ悲愴な空気が流れブラック・メタルらしさを醸し出しつつ、トレモロを武器に盛り上げて行ったりと、展開に聴きどころが多く、その手腕の巧みさがキラリと光る良曲だ。

 

Diotima

3RDフル(2011)/From:アメリカ/Style:ポスト

krallice_3rd

【Track】
1.Untitled(ブックレットに記載なし)
2.Inhume
3.The Clearing
4.Diotima
5.Litany of Regrets
6.Telluric Rings
7.Dust and Light

【Review】
1STと2NDの良いところを煮詰めたような作風で、Profound Lore Recordsからリリースされたアルバム3作目。

大量に用意されているトレモロフレーズを絡ませながらも2NDのダイナミックさも忘れていない実に理想的な内容。強引でややとっ散らかった印象も完全に払拭されている。楽曲にバランスの良さが際立っている様に思うし実際これは傑作の部類に入るのでは無いだろうか。何よりも荒涼感が増してきている点が生粋のブラック・メタル・ファンにとっては嬉しい所だろう。

相変わらず出番が少ないが、奥に引っ込んでいる印象のヴォーカルが少し前に出てきたし、前作で聴けた絶叫とドスの利いた咆哮もしっかりと継承している。楽曲自体もより一層、流麗になり聴きやすく全てが右肩上がりに上昇しているのでは無いだろうか。そういった極めてレベルの高い楽曲が全編に渡り堪能できるのだが、取り分け#4以降の楽曲が神憑っている。

#4のタイトル曲では、アートワークの様な神々しい霊峰が連想でき、荘厳さをしっかりと感じる格調高い楽曲だったり、#5では彼らにしては、ややミニマルな印象の楽曲を演っており、ミニマル系ならではの陶酔感が得られ、カタルシスをしっかりと感じる事が出来る。また#6も強力で、胸を掻きむしられる様な哀愁が炸裂したと思うと、一転してカオティックに雪崩れ込んだりと非常にドラマティックで悶絶に値する素晴らしい楽曲だったりする。個人的にこの3曲にはホント、ヤられた次第。

話題になるのも頷けるし、実際この音源は名盤かと。

 

Years Past Matter

4THフル(2012)/From:アメリカ/Style:ポスト

krallice_4th

【Track】
1.IIIIIII
2.IIIIIIII
3.IIIIIIIII
4.IIIIIIIIII
5.IIIIIIIIIII
6.IIIIIIIIIIII

【Review】
何故か自主制作になった四作目。

後追い人としては現物(CD)を入手するのに一苦労したが、そこは気合でなんとかゲット。筆者の様なこだわりがなければ、BandcampやAmazonでデジタル音源が入手可能。また、アナログ盤なら2013年にGilead Mediaよりリリースされている模様。

楽曲の方はどんよりとしたダークさに満ちあふれていると同時に何処となく哲学的なコンセプトが音から伝わってくる様な印象を受けた。どんなコンセプトなのかと問われると全く分からないのだが(笑)なので【Deathspell Omega】っぽい所もあるといえば、そうかもしれない。そういった路線に伴ってか、哀愁フレーズが影を潜めており、底知れぬ深みの様なモノと神秘的なオーラを纏ったサウンドに仕上がっている。”人知を超えた混沌”とでも表現したくなるような、そんな暗黒サウンドとでも言えようか。

また、今作では音響的な味付けが施されているのも見逃せない。故に暗黒アトモスフェリックな側面が強く、神秘性やダークさを助長させているのに一役買っている。

総じて一言では到底言い表せないコンセプトとしての難解さがあるモノの、しっかりとした【Krallice】サウンドが大前提にあり、全くブレて無いので安心して聴ける。言わずもがな強力である。

 

Ygg Huur

5THフル(2015)/From:アメリカ/Style:ポスト

krallice_5th

【Track】
1.Idols
2.Wastes of Ocean
3.Over Spirit
4.Tyranny of Thought
5.Bitter Meditation
6.Engram

【Review】
自主制作のCDプレス盤。尚、Avantgarde Musicからもリリースされている。

前作の延長線上にある作風だと言えるが、楽曲を表現する方法論に随分とメスが入った作品に仕上がっている。複雑なリフを絡み合わせて楽曲を構成するといった部分に変わりは無いのだが、彼らのトレードマークだったトレモロによる情景描写を大幅にカット。また、10分超えは当たり前だった前作までの大作主義が平均して6分弱と随分とコンパクトになった。しかしながら楽曲の濃さまでコンパクトになっておらず、より凝縮されて濃厚になっている。

4THで確立したカオティックな要素を極限まで伸ばしており、その複雑さは最早、猟奇性を取っ払ったテクニカルなブルデスレベルにまで達しているといえよう。メロディらしきモノは部分的にはあるが、極力控えめになっており、音楽としてストレートな部分は皆無と言える。

しかしどうだろう、楽曲を通して聴くと荘厳とでも言えそうな楽曲の輪郭が容易に感じ取ることが出来るのである。執拗にまでのリフが矢継ぎ早に繰り出され大洪水を起こしているのにも関わらず、伝わるモノは意外にも明確なのが凄い。カオティックなリフの集合体がやがて荘厳たるイメージを形作るとでも表現できるかと思う。これは凄いことであり、各メンバーの技量がとんでもないレベルに達している事を明確に示している。

これぞテクニカルさに裏打ちされたインテレクチュアルな音源である。一般的に問題作として扱われそうな路線であるが個人的にそうは思わない。進化の最果てにある一つの完成型だと筆者は考える。また、思い切った路線変更にも関わらず、一聴して【Krallice】だとわかるのもアイデンティティーにブレがない事を物語っており、やはり只者では無い…と唸ってしまった。Great!