Mortal Entrenchment in Requiem

1STフル(1999)/From:カナダ/Style:ディプレッシヴ

Malvery 1ST

【Track】
1.Overture – As Drowning Came From Horizon
2.I Movement – Drowned In A Dried-Up Lake
3.II Movement – Suicide The Only Solution
Phase I – Morose Delectation
Phase II – Illusion In Suicide
Outro – Your Soul Will Sob Again
4.III Movement – I Am The Prophet Of Fatality
5.IV Movement – L’Hystérie
6.Fermeture – Incantation Hystérique

【Review】
4人組ディプレッシヴ・ブラック・メタル。 今は亡きFrowz Productionsからリリースされていた唯一のスタジオ・フルレングス。このフルレングスのレコーディング直後にVoであるAmer LeChâtierは実際に自殺してしまいバンドは消滅してしまった曰く付きである。

スーサイダル系ブラック・メタルと言えば必ず名前が挙がるであろうバンドでここ日本でもマニアの間で話題になり、実際に自殺してしまうのも納得してしまう程の凄惨な内容、更には音楽性も伴っている事から名盤(冥盤)と名高い作品だ。【Sortsind】【Silencer】共にスーサイド系ブラック・メタルブームの火付け役の一つとして一役買っていたのも記憶に新しい。

この手のバンドにしては演奏力が驚く程高く、音質にもちゃんとキレがあったりと凄惨でSickな音を更に一段上のレベルにまで引き上げているのが特徴。特にドラマーは手数足数ともに苛烈なビートからスローなビートまで緩急を付けながら全力で叩いているのが伝わるし、リフも神経を逆撫でする様な気持ち悪いトレモロをベースにしながらも部分的に地を這う様なちょっとデス・メタルっぽい展開があったりネガティヴな路線を突き詰めたような内容である。またFuneralな雰囲気を醸し出すシンセによるアトモスフィアも上手く噛み合っており、徹底した雰囲気作りもまた見事。

この様に高度な演奏技術を有しているからこそなのだが、構築美とか様式美とかの音楽的なセオリーにあまり収まらなさそうな曲構成も必聴だろう。目まぐるしく変化し、病状がどんどん悪化していくような感覚はならではのモノを持っているし、芸術的にさえ感じられる不協和音は正に唯一無二だといえ、並のバンドではまず到達出来ないレベルに達している。

そして、何と言っても強烈に印象を残すのはAmer LeChâtierによるイッちゃってるヴォーカルワークだ。【Malvery】を語る上で絶対に外せないであろう表現力の高さを誇る。演奏も相当な病みっぷりだが、更にその上をゆくヴォーカルが乗っかるといよいよサウンドは壮絶を極めるのである。恐らく精神的にギリギリのラインでシャウトしているだろうと容易に想像できる魂の断末魔で「嘆き」「呻き」「絶叫」そして「嗚咽」といったネガティヴな要素を全て内包したような声はおっかない事この上なし。

聴き所は全部なのだが敢えて言うなら11分ほどある大作#3”Suicide The Only Solution”だろうか。一曲で三部構成の力作で【Malvery】のおおよその要素が入っていると言える。構成としてはドゥーミーなパートを経て、何かが決壊したかと思うとファストなパートに雪崩れ込むといった一際ドラマティックな楽曲を演っているのだが、その中でもがき苦しみながら複数の声色を使い分ける正気とは思えないヴォーカルが際立っており、むせ返るほどの【Malvery】が堪能できる名(冥)曲だ。

感受性の強い人はアルバムを最後まで聴き通す事がシンドイかもしれない。

死人が出ているから…という事を肯定する気は毛頭ないけれど、健康な人が創作できるとは到底思えないのも事実。コケオドシではない壮絶な音源である。

(2017/10/10:リライトしました)

 

Promo ’98

Promo(1998/2015)/From:カナダ/Style:ディプレッシヴ

【Track】
Side A
1.Mortel enracinement en requiem
2.Délectation morose
Side B
3.Noyé dans un lac desséché
4.D’illusion en suicide (Live)
5.Conclusion

【Review】
1998年にカセットでリリースされていたプロモ音源(勿論、自主制作)をD’Automne Recordsが2015年にVinyl(100枚限定)にて再発したもの。筆者が所有しているのは26/100。

予算を全くかけてないのか、ペラペラのコピー用紙でジャケットを作っているのでコシが全く感じられず、ふにゃふにゃしてる(シャキッとせんかい!笑)。しっかりとした厚紙で作ってほしかったな~と正直なところだがニッチなバンド故にソコには予算かけなかったんだろう。しかしながら14ページに及ぶコンセプトやらバイオグラフィー、歌詞、メンバーショット等が拝める超貴重な冊子(?)が封入されており簡素だとはいえコレクター魂やマニア心に響くモノになっているのではなかろうか。因みに全てフランス語で書かれているので読めません(笑)

こんな感じの冊子が付属。

さて音源の内容だが、気になる音質は当然ながらプロダクション等に気を遣って作られたモノではないが、何を演ってるか不明瞭な程の粗さはなく、意外にも骨格(リフ)がハッキリと聴き取れるので、普段からプロモ音源やデモ音源を楽しんでる層には恐らく何の問題もないレベルだと思われる。音質や演奏に関しては俗にいうRawでプリミティヴな質感ではあるが、アレンジがテンコ盛りで過酷を極めた1STよりかはむしろ聴きやすい部分があるかもしれない。何というか一般的なプリミティヴ系の作品として素直に聴けた次第。

また本作に収録されている各楽曲は、曲名こそ違うモノの1ST収録曲の元ネタとなっており、何れも1STとは印象が大きく異なっている。随所で1ST収録曲と同じリフが確認できるのだが、組み立て方が異なっている事からほぼ別曲と言っても差し支えないレベルだ。この様に比較対象があると、ようやく聴き比べが出来るので1STが如何にSickさを磨き上げているか、という事が確認できる。やっぱり凄いアルバムだったんだな、と思わせる。

とはいえ、神経を逆撫でるような徹底して気持ち悪いリフに支配された#2”Délectation morose”そして#3”Noyé dans un lac desséché”は正に真骨頂と言えるし、1ST発表後、一線を越えて自殺してしまったAmer Le Chatieによる生気が全く感じられない病的過ぎるヴォーカル等、プロモ音源から屋台骨は既に出来上がっており、思わず悪寒が走る事請け合いのSickを堪能できる。プロモ音源だからといって手を抜いている様子は全くない。

因みに#4”D’illusion en suicide”は何とLive音源で鬼ブラストで突っ走る直線的な疾走曲を披露、1STを聴いてもわかるように元々能力の高いドラマーだったが、改めて凄いんだなぁと再確認した次第。ラストの#5”Conclusion”は如何にもレクイエムっぽいインストで締めくくっている。

トータルランニングタイムが24分弱なので割と小粒な音源の割に、今となっては入手困難な激レア作品だが、”普通じゃない感”と、「なんちゃって」では到底済まされない”深刻な病み具合”故に大衆迎合的な音楽を楽しんでいる様な一般層には一生耳に届く事は無いだろうし、間違っても届いてはいけない凄惨なカルト音源である。