Spectral Lore

I

1STフル(2006/2008)/From:ギリシャ/Style:アンビエント

SpectralLore_1st

【Track】
1.Layers of Conception
2.The Drowning
3.Echoes of a Long Dead and Forgotten Place
4.The Descent
5.Sigma Receptor
6.The Cleansing Rain / Morningrise in the Eternal Fields
7.Exodus

【Review】
Aylossなる人物によるアンビエント・ブラック・メタル。2006年にSaturnine Societyからカセットでリリースされていた音源を2008年にTemple of TorturousがCD化したモノである。

アンビエントな音響が作品の大半を占めておりメタル的要素は極僅かなバランスで展開する。核となるアンビエント部分では何処となく宇宙を連想させるような広がりのある音響が多用される。

大雑把なプレビューとしては、#1-#5まではダークで無機質な音響が中心、#6のしとしと降り注ぐ雨のSEを皮切りに有機的な美しさへとその表情を変えていく。尚、メタル的側面はアンビエントを構成する上での表現的手法の一つに過ぎずオマケ程度のバランス。

筆者の貧弱な感性では、まるでビック・バン→宇宙創造→天地創造→文明へと移り行く、壮大な時の流れをこの作品で感じたのだが…実際はどうなんだろうか。

 

II

2NDフル(2007/2010)/From:ギリシャ/Style:アンビエント

SpectralLore_2nd

【Track】
1.Introitus
2.The Thorns That Guide My Warpath
3.Towards the Great Crossroad
4.Leaving the Stars Far Behind
5.The Drone’s Journey, Recoiling Beneath the Waves
6.Through an Infinite Dreamscape
7.To Wither in Silence and Dismay
8.Where Nature Will Not Ever Yield to Man

【Review】
2007年にカセットでSaturnine Societyからリリースされた音源を2010年にTemple of TorturousがCDで再リリース。

1STと比べるとブラック・メタル的要素が若干上昇している印象。ノイジーなギターを重ねアンビエント的な表現をしたり、アルペジオを奏でたりとギターを使用する場面が増えたとも言えるだろうか。

また、大作志向がより一層際立っており、間違いなく今作のハイライトであろう#2”The Thorns That Guide My Warpath”では、実に24分にも及ぶ一大叙情詩を披露。エピック/アトモスフェリック/アンビエント、これらのキーワードを全て飲み込んだブラック・メタル・チューンが聴ける。折り重なるトレモロ、時にアルペジオを駆使した取り分けブラック・メタル度が高い楽曲だ。打ち込みドラムがチープなのが残念だが、時にハッとさせられる美麗な旋律が切り込んだりと素晴らしい力作。

前作は主に無機質な空間的音響を主体とする路線であったが、今作はもっと有機的なイメージ。

宇宙視点から、地上に降り立ち自然に対する畏怖や鬱蒼とした情景だとかそういった情景がイメージ出来そうな楽曲群だ。

 

Sentinel

3RDフル(2012)/From:ギリシャ/Style:ポスト│アンビエント

SpectralLore_3rd

【Track】
1.All Devouring Earth
2.The Dejection of Arjuna
3.The Coming of Age
4.Quest for the Supramental
5.My Ascension into the Celestial Spheres
6.Atlus (A World Within a World)

【Review】
Stellar Auditorium Productionsからのリリース。個人的にジャケットのアートワークがお気に入り。

これまではアンビエントに重きを置いていた路線から一転、荒れ狂うブラック・メタルが主となるスタイルへと変貌。初っ端の#1”All Devouring Earth”から待ったなしの会心の一撃を放つ。折り重なるギターの轟音、轟く邪悪なヴォーカル、激しいブラスト(打ち込み)、そしてこれまでのアンビエント要素も効果的に取り入れた、正に”宇宙系ブラックここにあり!”といった楽曲を展開。なんといっても緊迫感に溢れており、往年の【Emperor】的な感覚がなんとなくあったりして悶絶級だ。

概ねこの様な作風の曲が#1-#5までキッチリと続くのだが、メロディを重視した様な#3”The Coming of Age”や、力強くもエピックな雰囲気がある#4”Quest for the Supramental”など、それぞれにちゃんと特色があり何気に充実したアルバムなのもポイントだろう。

ただ、封印した?と思われたアンビエント単体での楽曲は最後でまとめて放出されており、#6”Atlus (A World Within a World)”では実に30分にも及ぶアンビエントをぶち込んでくる。結局、蓋を開けてみれば全体の約4割程度はアンビエントだったという罠(笑)やってくれるぜ。

この作品から全てにおいて一段階上の高みに到達、正に”レベルが上がった”といった表現が相応しい。

 

III

4THフル(2014)/From:ギリシャ/Style:ポスト│アンビエント

SpectralLore_4th

【Track】
Disc 1 – Part I: Singularity
1.Omphalos
2.The Veiled Garden
3.The Cold March Towards Eternal Brightness
4.Drifting Through Moss and Ancient Stone

Disc 2 – Part II: Eternity
1.The Spiral Fountain
2.A Rider Through the Lands of an Infinite Dreamscape
3.Cosmic Significance

【Review】
今作はI, Voidhanger Recordsからリリースされている2枚組みの傑作。

アンビエントとブラック・メタルを融合した前作を踏襲した内容であるが、更にエピック度とメタル度がこの上なくパワーアップ。エピックなメタルとしても隙の無い作品になっている。

特筆すべきはAylossが描き出す濃密で独創性のある世界観であろう。これはアートワークからも存分に伝わるのだが、我々の住んでいる次元とは少し異なる異世界の叙情詩を描いている様なファンタジックさを感じた次第。神の国…そんな言葉が相応しい異世界情緒とでも言えようか。なんとも壮大でイマジネーションが掻き立てられる音だ。

折り重なる楽器が総動員で音響を構築し荒々しい流れがある中、確かに感じ取れる荘厳で何処か神々しい美しさがある楽曲群。アトモスフェリック、アンビエント、エピックといった要素が高次元で融合した叙情詩的ブラック・メタルの一つの到達点だろう。

尚、Disk1が路線的に前作を踏襲した比較的アトモスフェリック/アンビエントな要素が強いブラック・メタルが中心、Disk2がエピック度が強くメタルとしてもダイナミックな楽曲が中心といった概要である。

当然ながらLive向きな楽曲でも無ければ、二枚組みかつ長尺なので気軽に聴けるというお手軽さは無いが、じっくりと音楽と向き合うのを好むなら是非とも聴いて欲しいアルバムである。

筆者の感覚から言うと【Krallice】辺りを好むのであれば気に入るかもしれない。ともかくGreat!

 

Gnosis

EP(2015)/From:ギリシャ/Style:ポスト

SpectralLore_ep

【Track】
1.Dualism
2.Gnosis’ Journey Through the Ages
3.Averroes’ Search
4.A God Made of Flesh and Consciousness
5.For Aleppo

【Review】
I, Voidhanger Recordsからのリリース。マスタリングは【Krallice】で知られるColin Marstonが手掛けているそうだ。傑作”III”では何となく【Krallice】っぽい所があったので適材といえば適材と言える。

今作の特徴といえばアートワークを見ても伝わってくるのだが、何かと芸術色が前面に押し出されている。美術や芸術など全くのド素人なので詳しくはないのだが、ブックレットから情報を書き出してみると、”ジョン・ウィリアム・ゴッドワード”、”ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス”、”ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ”、”ウィリアム・アドルフ・ブグロー”といった18世紀-19世紀頃に実在した画家の絵画がブックレットに引用されている。何れの絵画も女性を描いている点で共通しており、どうやらそれぞれの絵画に詞と楽曲が付いているといった様式で進行していく。

音の方は詞があるモノのヴォーカルが殆ど機能しておらず、アンビエントと言うよりかはハッキリとした骨組みを持つ”インストゥルメンタル”作品になっている。音響的表現が重なっていく従来のイメージは勿論だが、ガッツリと演奏しており意外にメタリックなリフが飛び込んできたりする面も。これまでのイメージと些か異なったより肉厚のあるロックな側面が浮き彫りになっている。まぁ、この流れは傑作”III”におけるDisk-2の路線を発展、踏襲したともいえるかと思う。

もはやブラック・メタル云々といったイメージはなく、総合的なポストロック/マスロックの域。

ヴォーカルが殆ど無いのが残念だが、インスト作品としては絶品だろう。このEPの集大成ともいえそうな#4”A God Made of Flesh and Consciousness”が正に芸術の域で大変素晴らしい。

ヴォーカルレスが気にならなければ、HR/HMは元より音楽が心底好きな人にオススメできるレベルの逸品。