パブリブ 世界過激音楽シリーズ第25弾『メロディック・ブラックメタル・ガイドブック』発売。
これは、本書の「あとがき」のボーナストラックみたいなもんです。
さて、ひさびさの更新となりました。アップの仕方、ほぼ忘れていました笑 サイトの方はほぼノータッチでした。すみません。こういうことだったんです。
この度は『メロディック・ブラックメタル・ガイドブック』の著者として関わらして頂きました。ことの発端は『東欧ブラックメタル・ガイドブック』の著者である岡田さんからの推薦を頂き「ガイドブックを書かないか?」というパブリブ編集長の濱崎さんからお話を頂いたのが始まりです。メールでの話し合いの末、方向性を『メロディック・ブラックメタル・ガイドブック』と定まり、執筆がスタートしたのが何とコロナ前の2019年。コロナ直前に実際にあって打ち合わせ(という名のメタル談義)をしたのは何だか遠い昔のように思います。書き始めると、これまたバンド数が膨れ上がりました。超絶マイナーなバンドまで拾っていたので、これではサグラダ・ファミリアみたいに永遠に終わらない……となりました(もうじき完成するみたいですけどね)。
そこで、私と濱崎さん以外の「第三の目」が必要だと感じ、『ポスト・ブラックメタル・ガイドブック』の著者である近藤さん(a.k.a あちゃさん)に共著という形で協力を仰ぎました。本当に企画自体が、自分のモチベーションを含め、沈没寸前というのもあり快諾してくれて本当に助かりました。実際に会って打ち合わせという名のメタル談義をし、そこでいい刺激をもらいました。感謝です! そして件の混沌としたバンドのリストを近藤さんに見てもらい、バッサリと整理してもらいました。その名残というべきバンド達の一部は「ボーダー」という章で小さく紹介してあります。この載せる載せないの線引が、かなり厄介で、思想が邪魔して自分ではできなかったのが正直なところです。そこから時が急速に動き始めました。また『メロデス・ガイドブック』の著者である内藤さん(a.k.a ぴろぴろさん)にもコラムを寄稿して頂き、完成に漕ぎ着ける事ができました。この度は本当にありがとうございます。
今思えば、何度も挫け、考えがパンクして執筆が完全に止まった時期もありました。もちろん、仕事もありましたが、忙しいからというよりかは、書くことから逃げて、仕事に没頭している時期もありました。それこそ約2年ほど何も進まなかった時期があります。私にもブラックメタルに対する思想ってのがあるわけで、メロディック・ブラックメタルと相容れない部分というのがありました。本を書くうえでこれが本当に厄介で邪魔でした。ファンであるからこその悩みというか。好きだからこそ、筆が止まるといった感覚です。
メロディック・ブラックメタルという、近隣サブジャンルに近接しまくってるジャンルをどうチョイスすればいいのか……。本当にここが一番難しかったです。
例えば、大御所のMarduk。おそらくブラックメタルを聴くリスナーにとって、これはメロブラではないと答える人が絶対に多いハズ。検索で「Marduk Melodic Black Metal」で検索しても、まぁヒットしない。これは執筆関係者のなかで議論が絶えなかった事例の一つです。ちなみに私はメロディック・ブラックメタルではないと思っている派(あえていうなら2nd~4thまでかな?)でしたが、載ってないよりはあったほうが良い、大御所なので外せない、Dark Funeralが載ってるのに、Mardukは載ってないって不自然? 完全シカトはまずいのでは? ガイドブックにも書いておりますが、Mardukは黎明期メロディック・ブラックメタルと文脈を共有していたと言えるのでは? 等々、様々な意見を鑑みた結果、掲載する運びとなりました。
また、ギリシャ勢、Agatus、Rotting Christ、Varathron辺りはどうしたものかと。海外ではメロディック・ブラックメタルとして扱われる事が多いわけですが、逆に日本ではメロディック・ブラックメタルというより、「グリーク・ブラックメタル」または「ヘレニック・ブラックメタル」といった見識の方が多いのではないか? 一般的なメロブラのイメージである「寒々しい」というキーワードから少し離れるので、ここはバッサリと切ったというエピソードもあります。グリーク・ブラックメタルには一般的なメロディック・ブラックメタルとは明らかに異なる、奥深い独自の文脈があります。あまりツッコミ過ぎるとページオーバーになる為、今回は見送ることになりました。それこそ一冊書ける位のネタの宝庫だと思うわけです。一応、載せてはいるモノのあまり大きく言及はされていません。
一部、拡大解釈しているとしか思えないバンドも、意図して掲載しております。例えばカナダのShadeなんかは完全にプリミティヴ・ブラックメタルです。しかし、あの寒々しさ、おぼろげに浮かび上がる美しいメロディ、これは紹介したい、という想いもあり、メロディック・ブラックメタルとプリミティヴ・ブラックメタルへの架け橋としてあえて紹介しました。そのようなメロディアスだけど一般的なメロディック・ブラックメタルとは少し違うといったバンドを意図して織り交ぜております。いわゆる複数のサブジャンルにおけるポジティヴな架け橋となり得るのではないか? と思われるバンド達です。ここは最初に「隠しテーマ」として自分の中だけで定めた部分であります。なので、掲載している一部のバンド群に違和感を感じた方も多いと思いますが、その違和感は正解です。
メロディック・ブラックメタルの基本を押さえつつ、メロディック・デスメタル、ブラックメタル、プリミティヴ・ブラックメタル、シンフォニック・ブラックメタル、アトモスフェリック・ブラックメタル、ペイガン・ブラックメタル、フォーク・ブラックメタル、デプレッシヴ・スーサイダル・ブラックメタル、ポスト・ブラックメタル、そして、NSBMまで多岐にわたっております。(さすがにウォー・ベスチャル・ブラックメタルは無理だった!笑)上記のサブジャンルの特徴がありながらも、なるべくメロディック・ブラックメタルに近いものを選び、ガイドブックから逸脱しない程度に盛り込んでおります。実のところ、この事はガイドブックに携わった編集長の濱崎さんはおろか、共著の近藤さんには一切伝えてません。今、ここではじめて明かします。とっ散らかったリストを近藤さんに整理してもらったのですが、おそらくその意図が伝わったのか、いい感じに仕上げてもらいました。さすがです。
あと、〇〇載ってない問題、これは本当にページの都合としか言い様がなく、書いてる間も山のように音源が出てくるわけで、〇〇が載ってないんだけど? みたいな事は想定してますし、おおよそ、こちらの方でもあらかじめ予想は付いております。最終日になって、無理やりねじ込んだバンドもある一方で、あえて2021年~2024年の比較的新しいバンド群に関して、あまり多くは言及されていません。入手しやすい直近の作品に対して、余白を残すことによりディグしやすい環境を作りました。本書を参考にしつつ、ディグを楽しんでくださいというメッセージです。伝わるかどうかわかりませんが。
前述したような細かいニュアンスがメロディック・ブラックメタル・ガイドブックには含まれています。これが、厄介な部分で、人によって齟齬がある、人の感覚に頼ったふわふわしたジャンルだとやってみて痛感しましたね。実際にメロディック・ブラックメタル感というのは本書に携わった関係者の中でも、細かい感覚の違いがありました。当たり前の話ですが、音楽の感じ方は人によって違います。だからこそ面白い。ただ、それでは本は完成しません。悩ましいところです。
インタビューに関しては、先が見えない中、先走ってインタビューしてしまったので、情報が古いのも気掛かりです。本当にバンドサイドには迷惑を掛けたな、と。特にDark Fortressなんかはインタビューを送ったのはコロナ禍前、答えてもらったのはコロナ禍が始まった直後ですし、残念ながら2024年に解散してしまったので、なんか変な感じになっていると思います。そこは「最後のインタビュー」だと思って堪忍してやって下さい。すべて私の不手際によるモノで、ここは本当に申し訳ありません。内容の見通しが確定してからインタビューするべきでした。
そもそもが、400ページの白黒で発売する予定だったのが、時代の流れによりオール・カラーで200ページに変更、用意したレビューも400文字制限から300文字前後に削減、おまけに印刷費用の高騰という背景もあり、大幅にカットせざるを得なかったというのがあります。
パブリブの世界過激音楽シリーズは歴史を重ね、今回で25冊目です。これらを手掛けた先輩著者たちはどうやって乗り越えたんだろう。やってみて思ったんですが、前述した事例が山程あるわけです。何もメロディック・ブラックメタルに限った話ではないはずです。好きなだけでは本は書けないという事に気付かされました。本当にリスペクトしかないです。
ともあれ、そういった苦労があったガイドブックです。よろしくお願いします。手に取ってくれた皆に幸あれ! そしてありがとうございます。
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