Koldbrann
Nekrotisk Inkvisition
1STフル(2003/2004)/From:ノルウェー/Style:ブラック・メタル
【Track】
1.Fortapelse i svovel og helvetesild
2.Kaosmanifest
3.Koldbrann
4.Liturgi i dissonans
5.Fra allfars veg
6.Korpus Sepsis
7.Den endelige
8.Phlegetons bredder
9.Inkvisitor renegat
【Review】
4人組ブラック・メタル。2003年に自主制作としてリリースされた音源を翌年にTwilight Vertrieb(Close)がリイシューしたCD盤。【Djevel】【NettleCarrier】のMannevondが2001年に立ち上げ、後にKvassなるミュージシャンと合流して結成された混じりっ気無しの100%Pureなブラック・メタル(作曲に関しては3RDまでほぼKvassによるものである)。尚、ゲストミュージシャンとして【1349】のSeidemannが一部の楽曲でベースとして参加している。
実のところ【Djevel】が素晴らしかったので中心人物であるMannevondのルーツを探ろうとつい最近になって購入、結成が2001年と結構前から活動していたにも関わらず何故か今までノーチェックだった作品。単純に知らんかったのもあるが、掘ればまだまだ良質な音源が沢山潜んでいるなぁと改めて実感。
さて、楽曲の方は最後までダークなトーンを崩さず、掻き鳴らされるリフに仄かに抑揚を付ける【Darkthrone】的なリフが中心の割とストレートなスタイルだ。当然ながらシンセなどの小細工は殆ど無いスタイルなので最後までネクロなイメージを貫いており派手さとは無縁の硬派なスタイルと言えよう(一部にシンセが入ってるようにも聴こえるが)。
ささやかなレベルで叙情性を感じさせるパートがあるモノのネクロなイメージを台無しにする様な事は一切なく、かの【Darkthrone】の名盤”Under a Funeral Moon”辺りに通じるブラック・メタルらしいネクロさがこの音源からたっぷりと感じられた次第。これはMannevondのヘイトフルなヴォーカルスタイルも同様で、着実で安定したガナリ声でしっかりと詞(母国語)をなぞる事によっても醸し出されている。ネクロなリフ×ヘイトフルなヴォーカル…今回もMannevondが目指しているであろう”伝統的なノルウェイジャン・ブラック・メタル”を狙っているのは明確。
楽曲中にはフックがちゃんと散りばめられているモノの派手なワザとらしさも無いので、一見”地味なタイプ”に映るかもしれないがカッコ良さと渋みがしっかりと詰め込まれている傑作。数多くのフォロワーバンドの中でも「わかってる」感がちゃんとあり、ブラック・メタルの美学と云うか本質を突いている作品に仕上がってるのではなかろうか。
尚、ドラムの音にややクセがあり、スネアが乾いた音(?)で何となく奇妙に聴こえるが(特に#1”Fortapelse i svovel og helvetesild”で顕著)筆者的には耳を惹く”一種の味”として楽しめた次第。
初期【Darkthrone】型ノルウェイジャン・ブラック・メタルがお好きな方なら是非とも推したい逸品だし、Pureなブラック・メタルが好きなら是非ともチャレンジしてみて欲しい。単なるフォロワーではないというのは聴けば分かるはず。
ありきたりだけど本格派、正にThis is Norwegian Black Metalを体現しておりMannevondのヴィジョンはデビュー当時から全くブレてない事が窺える。Great!
Moribund
2NDフル(2006)/From:ノルウェー/Style:ブラック・メタル
【Track】
1.Alt er befengt
2.I suveren forakt
3.Steinet til jorden
4.Djevelens treskeverk
5.Smell of Vitriol
6.Moribund
7.Av sjel stagnert
8.Til Skiringsheim
9.Fullt spekter dominans
10.Skvadron
11.Bestial Swarm
【Review】
MannevondとKvassによるノルウェイジャン・ブラック・メタル2NDフル。メンバーチェンジで体制を整え5人編成になった。リリースは今回もTwilight Vertrieb。当時、同じレーベルメイトであったドイツのファスト・ブラック【Endstille】のメンバーから二人、Lars WachtfelsとIblisがゲストで参加している。調べてみるとMannevond自身も【Endstille】のLiveでヴォーカルを務めた経験があるみたいでバンド間の交流というか繋がりみたいなモノが少なからずあった模様。
さて、音源の方は楽曲の起伏がより明確になっておりミドルパートとファストなパートをバランス良くミックスした、言わば展開を重んじる作風になっている。ネクロでジメジメとした前作からは一転しており、ダイナミックなリフ&ドラムで聴き手を煽るアグレッシヴな部分を盛り込んでいるのが今作のポイントだ。また時折顔を覗かすオールド・スクールな部分もあってニヤニヤしながら聴けること請け合いの内容となっている。端的にいうと随分とカッコ良くなった。
雑で乱暴な書き方だが【Celtic Frost】と【Satyricon】や【1349】辺りをごちゃ混ぜにして平均的に整えたような印象だろうか(あくまで私個人の見解/笑)。しかも、わざとらしく演っているワケではなく、さり気ない所がまたカッコ良いし、上記で挙げた素材のチョイスから調理方法まで完璧にこなしているので、コレでカッコ悪くなるハズがない!と…ちょっとばかり卑怯な作品になっている。勿論、この様なスタイルはゴマンと居てるが並のバンドではこうはいかないだろう。
裏打ちによる疾走がカッコ良い&印象深い#1”Alt er befengt”や【Celtic Frost】の”The Usurper”ヨロシクなオールド・スクールなリフから一転、【1349】的に聴き手を煽るリフとドラムでスリリングに爆走を始める#2”I suveren forakt”等々、アルバムの掴みも強い。後の楽曲も言わずもかなカッコ良いし、特にこのバンドはリフがイイ!
この様に前作とは些か異なったパターンで攻めてきたが、やっぱり根底にあるブラック・メタルは不変だしノルウェイジャン魂は消えてない、むしろ更に輝きを増しているとさえ思うのである。
良作を作っておきながら何故かここ日本ではあまり知名度も無いように思うし、実際に筆者も最近まで知らなかったのもあって個人的に悔しいんだけど、よくよく考えるとこれがリリースされた2000年代半ばと言えば、明らかに90年代とは異なっていて、ネットの普及によりブラック・メタルは拡散し右肩上がりにバンドの数は増加する一方、録音技術や多様性も同じく飛躍的に向上。各々が個性を必死に打ち立て新陳代謝を繰り返すこの時代である。
そんな戦国時代の中、頑なに硬派な音源をリリースしていたMannevondの音源は目指す音楽性故に個性という側面では弱かったのかもしれないし、タケノコの様に現れる凡百バンドの波に飲まれて埋もれてしまったのだろう。しかしながら、そもそもそう云う流行り廃りなど関係ない硬派なスタイルだし、多様性の時代にこそ、聴いて欲しいバンドだと強く感じた次第。
願わくばブラック・メタルを愛する人へ、少しでもこのバンドの存在を知る切っ掛けになってくれればと思う。Great!
Vertigo
3RDフル(2013)/From:ノルウェー/Style:ブラック・メタル
【Track】
1.IntroVertigo
2.Totalt sjelelig bankerott
3.Hjertets Holodomor
4.Drammen
5.Stolichnaya smert
6.Terminal Transnistrii
7.Phantom Kosmonaut
8.Goat Lodge
9.I eklipsens skimmer
10.Sans soleil
11.Inertia Corridors
【Review】
ドラマーが交代、MannevondとKvassが率いる5人組ブラック・メタル。今作は6人のゲスト・ミュージシャンを投入している。有名所で言えば【Myrkskog】でお馴染みのDestructhorが参加、後は【ex-Djevel】のErlend Hjelvik、【Hagl】【ex-Beastcraft】のSorath Northgrove、他、がこの音源に関わっている。
レーベルもクローズしたTwilight Vertriebから大手Season of Mist(アンダー・グラウンド部門)に移籍している。因みにこの作品は12年に他界した元【Beastcraft】で【Koldbrann】にも参加経験があるTrondr Nefasと2011年に他界した【Disiplin】や【Slavia】、そして【Koldbrann】に参加した経験があるJonas Raskolnikov Christiansenの二人に捧げられている。
まず最初に目を引くのは何と言ってもバンドロゴの大幅な変更だろう。以前までのおどろおどろしくもコテコテなデザイン(ネクロさがよく表現されてたと思う!)からシンプルなフォント(何処と無くキリル文字を連想してしまうロシア風って感じ?)によるデザインに変更。以前までの路線を欲しがっているとナカナカ不安にさせてくれる。音源とは直接関係が無いとはいえ、バンドの方向性を暗に示す重要な指標にもなり得るからだ。これじゃまるでインダストリアルまたはモダン化したよ~とアートワークが公言している様なもんである。
まぁ、結果、予感は的中するのだが(笑)
蓋を上げてみると予想通り程よくモダン化が進んでおり、楽曲によってはパンキッシュなノリをも飲み込んだ何とも不思議な音を演っているのだ。以前と比べにならない程にダイナミックになっており、シンセの導入も目立たないにせよ表立ってきているし、アヴァンギャルドと言い切るトコロまではいかないにせよ、ミクロな部分でそう言った要素がちらりと顔を覗かしたりする。最早、MannevondとKvassが推し進めていた伝統的なブラック・メタルとは言えず(これは後に覆るのだが…)、どうやらココにきて実験色を強めてきた様だ。
基本的にミドルパートがベースになっており、割とシンプルでハッキリとした輪郭を持つリフを積み上げていき、ベースの動きも明瞭、全体的にクリアな音質になっているのは勿論のこと楽曲によっては流麗で派手なリードギターが乱舞したり、ノリ自体がパンキッシュなパートがあったりと色々とやりたい放題演っている(とはいえ、ちゃんと練られている)。
以前の作風を期待すると「ムムッ!?」となったが、これが割とイケる、と言うかめっちゃエエねん(笑)素直に絶賛できないのがむず痒いトコロではあるが、聴き込むとかなり美味しいアルバムだと言うことに気付く。やっぱりこのバンド、リフが最高にカッコ良い。以前と比べ、どれだけの振り幅があるかと言うと#5”Stolichnaya smert”辺りをサンプルとして試聴してみると良いかも。
先に”伝統的なブラック・メタルとは言い難い”と書いたが、モダンな部分は、最近の【Satyricon】の方向性といえなくもないし、パンキッシュな部分は最近の【Darkthrone】にも通じているとも言えないだろうか。だとすればノルウェイジャン・ブラック・メタルの歴史をアルバムを通して体現しているのでは?という勝手な解釈に至った次第。
具体的に書くと1STは90年代初期のネクロで陰湿な背景、2NDは90年代後半から2000年中頃までのメタルとして幅が広がった背景、そしてこの3RDは更に一歩踏み出し形を変えていく多様性の背景…大雑把ではあるが何となくノルウェイジャン・ブラック・メタルの歴史とリンクしている気がするのだ。
また、音が変化したとはいえ、ノルウェー産だという事が一聴して分かることから(コレ重要)、案外”伝統的なノルウェイジャン・ブラック・メタル”からそうかけ離れていないのでは?という思いに至った。
そう考えると勝手ながら、すとんと腑に落ちた次第。さて、次はどう出るか?楽しみである。
Great!
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